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埋もれない戦略と“しつこさ”で、道を開く
「株式会社クラークン」

広島大学在学中に起業し、現在は大学生ながら株式会社クラークンの代表として、広島の企業と学生をつなぐ事業を展開する千田太志さん。シンガポールで育ったバックグラウンドを持ち、学生でありながらマツダ株式会社をはじめとする大手企業のサプライヤーなどと連携し、独自の視点で広島の「転出超過」という課題解決に取り組んでいます。創業の経緯から、事業を軌道にのせるために大切なこと、そして今後の展望についてお話を伺いました。

株式会社クラークン 代表取締役 千田 太志さん

株式会社クラークン(Clark'n) 代表取締役CEO。2002年生まれ。6歳から16歳までをシンガポールで過ごし、中学生で起業を志す。高校1年のとき、単身帰国して個人で動画編集事業を開始。浪人後、広島大学 総合科学部 国際共創学科に進学し、大学1年の2022年10月に合同会社クラークンを設立。学生目線のコンテンツ制作とイベント企画で、広島の若者定着と企業の人材確保を支援している。2025年12月に株式会社化。

シンガポールでの原体験と、「埋もれない」ための広島

  • 記者 千田さんの創業の原点は、子どもの頃に過ごしたシンガポールにあるとお聞きしました。
  • 千田さん 6歳から16歳までシンガポールで過ごしました。生まれは神奈川県ですが、幼少期の記憶はほとんどシンガポールです。周りには起業家が多く、中学生の頃から「起業したい」と思いはじめていました。当時、学校で「ペン回し」が流行していて、世界大会もあるほどの盛り上がりで、僕も熱中していました。いろいろな人の動画を集めて一つの作品にする文化があり、それがきっかけで動画編集を始めました。
  • 記者 その後、日本に帰国されたのですね。
  • 千田さん 当時、シンガポールでは学生ビザの関係でお金を稼ぐビジネスができなかったんです。なので仕事をするために帰国しました。神奈川の高校に通いながら動画編集の個人事業を始めましたが、何のネットワークも持っていなかったので、YouTuberの方に片っ端からDMを送って仕事を集めましたね。しかし、編集単価がだんだん下がってきたので、企画やディレクションもするなど、徐々に事業領域を広げていきました。
  • 記者 そして広島大学に進学されましたが、なぜ広島を選んだのですか?
  • 千田さん 実は、現役時代はほとんど勉強していなくて、受けた大学は全部落ちました(笑)。浪人して受験について調べ直し、自分の経験が生かせる総合型選抜(旧AO入試)を知りました。大学を探す中で、広島大学では学生の起業支援や、大学発ベンチャーへのサポートがすごく手厚いことを知り、祖父が広島大学出身という縁もありました。また、事業を広げていくことを考えると、東京では埋もれてしまうけど、広島なら注目が集まりやすいのではないかと考えました。
  • 記者 実際に広島に住まれてみていかがですか?
  • 千田さん 大学や地域の方と話して感じているのですが、人が温かいですね。神奈川や東京は、みんな忙しくてそれぞれが独立して生きている印象でしたが、広島は対応が丁寧な方が多くて、住みやすいと思います。

「しつこさ」でつかんだ企業との連携

  • 記者 大学1年生の10月に会社を設立されたそうですが、当初から順調だったのでしょうか?
  • 千田さん クライアントがたくさんいたわけではなく、「会社をつくったらかっこいいかも」という勢いもありました。大学生には親というセーフティーネットもあるので、「まずはやってみよう」という決断です。最初は知り合いづてにイベント動画を作る程度。広島は企業同士の「横のつながり」が強く、学生がその事業に入っていくのはすごく難しいんです。でも、僕はラッキーなことに入り込むことができました。
  • 記者 どんなきっかけがあったのでしょうか。
  • 千田さん 「ひろしま自動車産学官連携推進会議(ひろ自連)」という、県やマツダ、大学などが連携する団体の部会で、広島からの「転出超過(若者の流出)」が課題になっていました。「若い人が来ない。若い人の意見を聞きたい」と広島大学に相談があり、僕たちに声がかかりました。それから「サプライヤー企業の魅力を伝えるためにSNSや動画をやった方がいい」と1年間くらい説得し続けて、ようやく「トライでやってみよう」となりました。
  • 記者 1年間も説得し続けるというのはすごい熱量ですね。
  • 千田さん 「ここを逃したら次はない」と思って、当時やっていた他の仕事を全部やめてでも集中しました。学生で実績も信用もない中、ひろ自連の方が後押ししてくださったのが大きかったです。

来たボールを打ち返し、実績に変える

  • 記者 そんな中で生まれたのが、現在のメイン事業である「ひろしまジョブナビ」ですね。
  • 千田さん はい。これは広島で就職を考える学生に向けた情報メディアです。サプライヤー企業さんは素晴らしい技術を持っていても、B to B事業なので学生には名前が知られていません。そこで、学生キャストを使って企業に潜入する動画を作っています。人事の方だけが会社の良さを語る動画だと、学生は「いいことしか言っていないのでは」と疑いがちです。情報の信頼感が高まるように、学生の目線でコメントを入れるなど工夫しています。その動画をきっかけに採用につながった事例が1年目から出てきて、想像以上の反応でした。
    広島は歴史的にも世界的な知名度があり、ポテンシャルはすごく高いです。採用広告にお金を出せばいい会社として掲載される、そんな情報の偏りを是正して、広島の隠れた優良企業を学生に知ってもらう。そうして人をつなげることで、この地域をもっと盛り上げていきたいですね。
  • 記者 就活イベント「おしゃべり就活」も特徴的ですね。
  • 千田さん 就活イベントって、学生は緊張して本当に聞きたいことを聞けないですよね。「朝早いですか?」とか「ブラックじゃないですか?」なんて聞けない(笑)。そこで、服装はカジュアルでOKにして、企業ブースをぐるぐる回る形式ではなく、一つのテーブルでじっくり話すスタイルにしました。グループチェンジの回数も抑えて、時間をかけて打ち解けてもらうようにしています。学生からは「最初は緊張したけど、いろいろ聞けてよかった」といったポジティブな感想が多く、新しい就活の形になる手応えを強く感じています。
    • 記者 新しい形を次々と提案されていますが、その発想の根源はどこにあるのでしょうか?
    • 千田さん 昔から「当たり前」に対して「なんで?」と疑問を抱く子どもでした。「信号機はこっちのシステムの方がいいんじゃないか」とか、国語の問題で「なんで作者じゃない人が答えを決めるの?」とか(笑)。一歩引いて俯瞰して見る癖があるんだと思います。
      あと、とにかくやってみることですね。マツダのサプライヤー企業の方々が集まる「東友会(とうゆうかい)」という会合に、外部講師として呼んでいただいたことがありました。120人くらいの社長や役員の前でプレゼンをして、場違いで少し怖かったです。でも、多くの社長さんとつながることができ、ご相談に対しては「やってみます」と即答して取り組んできました。チャンスにしつこく食らいつき、来たボールを打ち返すことで信頼を得られたのだと思います。

    人をつなげることで広島をもっと盛り上げたい

    • 記者 2025年12月に株式会社に改組されました。これからのビジョンを教えてください。
    • 千田さん 株式会社にした一番の理由は、役員を迎え入れやすくするためです。社会的信用を高めて、将来は資金調達も視野に入れています。ただし資金調達は、安易に行って自由度を失うのではなく、今はまず自分たちの事業でしっかり売り上げをつくり、その上で新しいプロダクト開発などに投資していきたいと考えています。
    • 記者 会社のスローガンとして「Nurturing Human Connection(人のつながりを育む)」と掲げられていますが、どのような思いが込められていますか?
    • 千田さん 現代だからこそ、人の深いつながりを大切にしたいという思いですね。インターネットで簡単につながれる時代ですが、本質的なつながりは希薄になっている気がします。そうした変化は、就職活動の場面にも表れているのではないでしょうか。広島は転出超過という課題を抱えており、若い人が就職などをきっかけに、広島から出て行ってしまっています。もし企業と学生の関係を、「会社 対 就活生」の一方通行ではなく、「人 対 人」として双方向のコミュニケーションに結び直せれば、助け合いや理解が生まれ、「ここで働きたい」「この街で暮らしたい」と思うきっかけになりますよね。これからも広島をベースに、人と人とのつながりを育てる仕事を続けていきたいです。
    • 記者 千田さん個人として今後の目標はなんでしょうか?
    • 千田さん まず、大学は絶対に卒業します。海外で働くとなったとき、専門職の就労ビザの要件で大卒の資格が必須になることが多いんです。将来の選択肢をつぶしたくないので、しっかり卒業しようと思っています。大学院に行くかもしれませんし、一度社会に出てから戻るかもしれません。とにかく「選択肢を多く持っておく」ことが大切だと思っています。社会人になったら時間は増えるので、もっと仕事に没頭できると楽しみにしています。自分をどこまで追い込めるか試したいです。
    • 記者 最後に、これから創業を目指す方たちへメッセージお願いします。
    • 千田さん 創業すること自体を目的にしない方がいいと思います。お金だけを追いかけると自分もつぶれるし、信用も失います。僕は「自分の人生が楽しいかどうか」が一番大事で、そのために会社をやる必要があるからやっているだけです。自分の価値観や人生の目的とずれていないか、いつも考えることが大切だと思います。



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